仕事をしている方は、がんと診断されて「仕事はもう続けられないのではないか」と退職を考えてしまうかもしれません。まずは、今後の治療スケジュールと仕事を続けられるかの見通しを主治医に確認しましょう。仕事を続けるのは大変なこともあるかもしれませんが、治療をしながら仕事を続ける方も増えています。経済的なことだけでなく、社会とのつながりは大切なものです。大切な決断は急いでひとりで決めずに、職場でどのように伝えたらよいのか、誰に何を確認すればよいのかなども含め、がん相談支援センターにご相談ください。
その上で、仕事を休んだり辞めたりすると決めたとき、心身に障害が生じて生活にサポートが必要になったときに、経済的な負担を軽くするための制度をまとめました。
1.仕事を休んだとき・辞めたとき
1)傷病手当金
会社員や公務員などが病気などで働けなくなったときに、生活を支えてくれる制度です。被用者保険(健康保険、共済、船員保険)独自のもので、休職などにより十分な収入が確保できない場合に、基準に応じた収入額を保障します。
すでに退職した方でも、当時加入していた保険から、さかのぼって傷病手当金を受給できることもあります。ただし、1年以上その保険に加入していたこと、退職する前に傷病手当金がもらえる条件を満たしていたことなどが条件になります。退職してからの手続きは複雑になるので、可能であれば、退職する前に、勤務先の担当部署に問い合わせておきましょう。
この制度の対象となる方
- 被用者保険(健康保険、共済、船員保険)の被保険者本人(被扶養者は除く)
*国民健康保険の被保険者は対象外
主な仕組み
- 支給額:休職している間、1日につき給料(日額)の3分の2にあたる額が保障されます。
- 支給期間:通算で1年6カ月間支給されます。
*2022年1月より、支給期間が「最長で1年6カ月」から「通算で1年6カ月」となりました。この変更により、職場復帰し、傷病手当金を不支給になった期間は、1年6カ月に含めなくてよくなりました。
- 次のすべての条件を満たした場合に利用できます。
(1)仕事をすることができないこと(2)3日以上連続して仕事ができなかったこと(傷病手当金が支給されるのは4日目以降)*待機期間(仕事ができなかった連続する3日間で、傷病手当金が支給されない期間)には有給休暇や休日も含まれる(3)給料や、障害・老齢年金などが支払われない(支払いがあっても傷病手当金の支給額より少ない)こと*支払額が傷病手当金の支給額より少ない場合は、差額を補てんする(4)業務外の事由による病気やけがの療養のための休業であること(労災対象者は対象外)
多くの場合、手続きには、勤務先から発行される休職証明などの書類が必要になります。まずは勤務先の担当部署に相談してみましょう。
手続きの窓口
- 加入する公的医療保険の窓口
2)雇用保険による基本手当
離職し、働く意思と能力があるにもかかわらず就職できない方に対して給付される手当です。がんの治療をしながら仕事を続ける方も増えています。しかし、やむを得ず離職した場合、再び働ける状況になったときには、就職できるまで基本手当の給付を受けることができます。
受給できる期間は原則として離職の翌日から1年間とされています。治療などですぐに働くことが難しい場合には、「失業」とは認められず基本手当を受け取ることができません。しかし離職後に受給延長手続きをしておくことで、働ける状況になったときの受給期間を最大で3年間延ばし、合計で4年まで延長することができます。
また、傷病手当金を受給していると雇用保険による基本手当を受給することはできませんが、受給期間を延長することで、傷病手当金受給期間が終わった後に基本手当を受給できるようになります。受給期間の延長についてはハローワークへ届出が必要です。(離職した翌日から1カ月以内)
この制度の対象となる方
主な仕組み
- 受給額:離職前6カ月に支払われた給与の1日あたりの金額の50~80%(60~64歳については45~80%)
- 受給期間:原則として離職翌日から1年間です。離職日の年齢や、雇用保険の被保険者であった期間、離職理由などにより90~360日の間で決まります。
手続きの窓口
- 住所地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)
2.心身に障害が生じたとき
1)障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金、障害共済年金)
病気などで生活や仕事などが制限されるようになった65歳未満の方に年金を支給する制度です。人工肛門の造設や、咽頭部摘出を受けた方のほか、日常生活で介助が不可欠な場合や、生活や仕事に著しい制限を受ける状態になった場合に受給できることがあります。
初診時に加入していた年金保険によって、障害基礎年金(国民年金)、障害厚生年金(厚生年金)、障害共済年金(共済年金)に分かれます。障害基礎年金は障害等級1、2級が対象ですが、障害厚生年金などは1~3級までとなっています。
なお、障害等級は、身体障害者手帳の等級とは異なり、手続きも別に行う必要があります。
その他、原則としていずれかの年金に加入中に障害を負った方、保険料を一定期間納めていることなどの要件を満たしている必要があります。なお、障害基礎年金は、20歳未満、または60歳以上65歳未満の方でも条件が合えば対象になります。
障害年金の制度の申請は、提出書類も複数あり、少し複雑です。がん相談支援センターや医療機関に設置されている相談室、ソーシャルワーカー、下記の窓口などへ相談することからはじめましょう。また、必要に応じて社会保険労務士などの専門家に確認するとよいでしょう。病名、病歴、受診歴、基礎年金番号(年金手帳)などが必要になりますので、準備しておきましょう。
手続きの窓口
- 「障害基礎年金」…各市区町村役場の国民年金の窓口
- 「障害厚生年金」…勤務先の担当年金事務所
- 「障害共済年金」…勤務先の担当共済組合事務局
2)障害手当金(厚生年金)、障害一時金(共済年金)
障害手当金は厚生年金、障害一時金は共済年金の加入者が対象です。どちらも、障害年金の対象にならない軽度の障害を負った方に、一度だけ支給されます。
手続きの窓口
- 「障害手当金」…勤務先の担当年金事務所
- 「障害一時金」…勤務先の担当共済組合事務局
3)心身障害者福祉手当
在宅の心身障害者に手当金を支給することにより、日常生活の支援、福祉の増進を図ることを目的とした市区町村の制度です。支給対象や支給額、実施の可否についても自治体により異なりますので、ご確認ください。
相談・手続きの窓口
- お住まいの市区町村障害福祉担当窓口
4)特別障害者手当
精神(知的を含む)または身体に著しく重度の障害を有するため、日常生活において常時介護を要する状態にある在宅の20歳以上の方に支給される手当です。なお、継続して3カ月以上病院に入院している場合や、施設などに入所している場合は受給できません。また、所得制限もあり、所得が一定以上ある場合も支給されません。
手続きの窓口
- お住まいの市区町村障害福祉担当窓口
5)その他
その他にも、障害を持つ方の介護者に対して手当を出す自治体など、自治体により独自の制度があります。制度の詳細については、居住している自治体窓口へお問い合わせください。また、「特別児童扶養手当」「障害児福祉手当」など、養育する子に障害が残った場合の手当については、小児の医療費の助成制度をご確認ください。
手続きの窓口
- お住まいの市区町村児童福祉担当窓口
- お住まいの市区町村障害福祉担当窓口
3.生活が困窮したときなど
上記以外で、生活が困窮したときなどに利用できる制度をまとめました。
1)生活福祉資金貸付制度
低所得者世帯、障害者世帯、介護を要する方のいる高齢者世帯、失業者世帯に、都道府県の社会福祉協議会が生活福祉資金を貸し付ける制度です。用途別に、貸し付けの条件や貸付資金枠・限度額が設けられています。
貸付利子の利率は、原則、連帯保証人を立てる場合は無利子、連帯保証人を立てない場合は年1.5%とされています。(緊急小口資金・教育支援資金・不動産担保型生活資金などの例外あり)
手続きの窓口
- 各市区町村の社会福祉協議会
2)生活保護
病気で仕事ができない、収入が乏しいといった理由で生活が苦しい場合に、経済的援助を行う制度です。あらゆる手段を尽くしても、最低限度の生活を維持できないときに、はじめて適用されます。
生活保護の給付には、日常生活に必要な費用については生活扶助、必要な医療は医療扶助、必要な介護サービスは介護扶助というように種類があります。
申請を行うと、福祉事務所のケースワーカーが、生活や仕事、資産状況などを調査します。その結果をもとに給付の可否や、その世帯にとって必要な扶助が決められます。
手続きの窓口
- 各市区町村役場の福祉窓口や福祉事務所
3)保険料などの支払いの免除
(1)国民年金の保険料納付免除
保険料を納めることが経済的に困難な場合には、本人の申請手続きによって保険料の納付が全額または一部免除、または猶予されます。免除期間の年金額は減額されますが、猶予の場合は条件により減額される場合と、年金額に反映されない場合もあります。
手続きの窓口
- 住民登録をしている各市区町村の国民年金担当窓口
(2)住宅ローンの支払い免除
銀行などの住宅ローンは、病気になったりして就労が不能になった場合、支払いが免除される場合があります。詳しくは、住宅ローンを契約している銀行などにお問い合わせください。
4)年金
(1)老齢年金の繰り上げ支給
老齢年金は、受給資格を満たしている場合一定の年齢(生年月日に応じて60~65歳まで)になると支給されます。老齢基礎年金は60歳から繰り上げ請求をすることができます。また老齢厚生年金も、生年月日に応じて、60歳から繰り上げ請求をすることもできます。
ただし、繰り上げて支給を受けた場合は、支給額が減額されるので、治療や療養、今後の生活についても視野に入れて検討することが必要です。
手続きの窓口
- 住所地を管轄する年金事務所
(2)特別支給の老齢厚生年金(障害者特例)
特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受けている方が、定額部分の支給開始年齢到達前に障害の状態(厚生年金保険法の障害等級3級以上)になった場合、障害者特例の適用を受けることができ、報酬比例部分に加えて定額部分も支払われます。
手続きの窓口
- 住所地を管轄する年金事務所